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東京地方裁判所 昭和43年(モ)431号 判決 1968年6月27日

債権者 モリシタ産業株式会社

右訴訟代理人弁護士 萩原四郎

同 宇津木浩

債務者 有限会社昌弘社

右訴訟代理人弁護士 高桑瀞

同 高桑幸子

主文

債権者と債務者間との、当庁昭和四二年(ヨ)第一三、〇二一号不動産仮差押事件について、当裁判所が同年一二月一五日になした決定はこれを取消す。

債権者の本件仮差押申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一、申請の趣旨

主文第一項掲記の仮差押決定を認可する。

二、申請の趣旨に対する答弁

主文第一、二項同旨。

三、債権者主張の申請の理由

1、債権者は債務者から昭和四二年五月一日、東京都文京区関口水道町七番三宅地一六五・二八平方メートル及び同町同番六宅地三・五三平方メートル(以上両宅地を本件宅地と略称する。)を代金七六五万六〇〇〇円で買い受ける契約を締結し、同日手付金六〇万円を支払った。

2、右契約において、違約金の定めとして、右契約が解除された場合、売主の債務不履行に基づくときは、売主は買主に対して右手付金を倍返しし、買主の債務不履行によるときは、右手付金の返還請求権を放棄することを特約した。

3、右宅地は袋地であるが、公道に通じる私道の所有者が、自動車の通行及び下水、ガス、水道管の埋設を承諾せず、これがため契約をなした目的を達することができないことが契約後判明した。

4、右の点につき債権者が債務者を詰問したところ、債務者は右私道所有者の承諾を得て、自動車の通行を支障なからしめることを約束したのに拘らずこれが履行をしない。

5、よって債権者は買主として、昭和四二年一〇月五日内容証明郵便で債務者に対し契約解除の意思表示をした。

6、(被保全権利)

債権者は債務者に対し、第一次的に右4記載の債務不履行責任にもとずき、予備的に瑕疵担保責任にもとずき、損害賠償として前掲2記載の特約による違約金一二〇万円の支払を請求する。

7、(保全の必要性)

債務者は多額の債務を負担している模様で本件宅地が唯一の財産である。

8、よって債権者は当庁に対し、債務者所有の本件宅地を仮に差押える、旨の申請をしたのであって、これを認容した原決定は相当である。

四、申請の理由に対する債務者の答弁

第一項、第二項の各事実、第三項のうち本件宅地が袋地であること、及び第五項は認め、その余の事実は否認する。

五、疏明<省略>

理由

一、債権者主張の自動車通行権確保の特約の存在は、本件全証拠によるも疏明がない。よって、債務不履行による契約解除に基づく損害賠償を求める債権者の請求は理由がない。

二、瑕疵担保責任に基づく契約解除権の発生を認めることができない。

(一)  <疏明資料省略>を総合すると次の事実を認めることができる。

1、債務者はオフセット印刷を業とする会社であって、本件宅地上に工場兼居宅(木造瓦葺二階建、延四九・二五坪)を所有し業務を営んでいた。

2、債権者は建売建築を業とする会社であって、本件宅地を建売に利用する意図で買受けた。債権者・債務者間に取換された売買契約書には、債権者は本件宅地及び右工場兼居宅を買受けて建物は撤去すること、その滅失登記手続は売主たる債務者がする旨の記載がある。

3、本件宅地は袋地であるが、公道までは巾員四米、延長四二・九二米の直線の私道が設けられており、これは昭和二七年六月二七日付で東京都知事から道路位置指定を受けている。

本件売買契約成立当時、右私道にはその所有者である件外地引徳一ほか二、三の者の家屋が左右から若干はみ出してはいたが、小型自動車の通行は可能でありガス管、水道管、下水管はいずれも埋設済みであった。

4、尤も本件宅地内部まではガス管は引込まれておらず、債務者はプロパンガスを使用していた。また、私道所有者前記地引は以前から債務者に対し、本件私道への自動車乗り入れを下水管がこわれるからといって禁止し、若し強いて乗り入れると右地引及び同人の親戚であって右私道に面して居住する岡村、佐生という人々らが詰問に出てくる状況であったため、債務者はその事業に必要な紙類、印刷物等の運搬にはリヤカーを使用していた。

5、債権者は本件宅地買受後右地引と折衝したが、自動車通行及び既存のガス管の使用または新管埋設のいずれも承諾を得られなかった。

(二)  右の事実に基づいて考えるに、私道所有者地引が自動車通行やガス管使用を妨げる真意は分明でないが、債権者と右地引との隣人関係が調和を欠いた結果発生してきた主観的なものであってかゝる妨害が売買目的物たる宅地の瑕疵に該るかは疑問なしとしないところである。しかしながら、その判断はさておき、本件契約の目的についていえば、それは本件宅地上の既存建物を取り毀し、新しい住宅を建築することにあると認めるのが相当である。

そして、右のような妨害があることはその目的のために或程度の障害になるとしても、その達成を不能ならしめるほどのものとは考えることができない。従って仮に前記妨害が瑕疵に該るとしても、これを理由として契約解除権は発生し得ないというべきである。よって違約金の約定が瑕疵担保責任にも適用されるか否かを判断するまでもなく、債権者の請求は失当であり、右の違約金以外に債権者は損害について主張立証しない。

三、これを要するに債権者の主張にかゝる被保全権利はいずれも疏明なきに帰するわけであるから先になされた前掲仮差押決定はこれを取消し、本件仮差押申請を却下することとする<以下省略>。

(裁判長裁判官 長井澄 裁判官 清水悠爾 小長光馨一)

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